二月花形歌舞伎
【STORY & CASTING】
◎昼の部◎
猿之助四十八撰の内
一、通し狂言 天竺徳兵衛新噺(てんじくとくべえいまようばなし)
鎖国に閉ざされていた江戸時代は、今と違って、異国は遙か彼方の遠い存在であった。海外のことを知るすべがほとんどなかった庶民は、外国について描かれた書物や芝居に大いに興味を示した。天竺徳兵衛もそうした庶民の関心を集めた人物の一人である。彼は江戸時代初期に実在した人物で、播磨国加古郡高砂町(兵庫県高砂市)に生まれ、15歳で朱印船に乗ってベトナム、シャム(タイ)などに渡り、その後オランダ人の船に乗って天竺(インド)まで訪れた。鎖国体制が敷かれた後は、大坂で余生を過ごしたが、九十歳を超える長寿を全うしたといわれる。彼が長崎奉行に提出し、後に出版された「天竺聞書」と呼ばれる見聞録は、当時の人々の関心を大いに集めたという。
天竺徳兵衛を主人公にした芝居は、江戸時代にいくつか書かれたが、そこには奇怪で荒唐無稽な、歌舞伎らしい大胆な発想が見られる。それらの中で最も知られているのが1804年初演の四世鶴屋南北『天竺徳兵衛韓噺』である。この作品で徳兵衛は、国家転覆をたくらむ悪人として描かれている。謀反の罪で切腹した父、吉岡宗観に、自分は清に滅ぼされた朝鮮の遺臣であることを知らされた徳兵衛は、父から蝦蟇の妖術を授かる。初演で徳兵衛を勤めた初代尾上松助は、早替わり、仕掛けなどのケレンをふんだんに使い、その鮮やかさに当時「キリシタンの妖術を使っている」などというまことしやかなうわさが立って、奉行所が取り締まりに動いたほどで、それがかえって人気を高めたとも言われている。
猿之助はこの『天竺徳兵衛韓噺』に、同じ南北の怪談『彩入御伽草』の小平次殺しの筋をないまぜにした『新版・天竺徳兵衛新噺』を1982年(昭和57年)に初演した。復活通し狂言十八番として、「猿之助四十八撰」の一つに数えられている。
徳兵衛の語る異国の話が見せ場だが、ここは、上演される時々に合わせて最新の世界情勢などを取り入れ、見物を引き込むのが役者の知恵の見せどころだ。宗観から蝦蟇の妖術を授かった徳兵衛が、大蟇の中から飛び出して現れる場面にはあっと驚かされる。妖術を操り、葛籠抜けの宙乗りで空を飛ぶ徳兵衛。一方、ワキ筋の小平次殺しでは、仕掛けがふんだんに活躍。猿之助はこれまでの上演で、女房おとわと小平次の二役を勤め、殺された小平次が幽霊となって現れ、消えて間もなくおとわが登場するなど、鮮やかな早替わりを見せている。全幕を通し、歌舞伎ならではの大仕掛けなスペクタクルが見ものだ。娯楽作品として理屈抜きに楽しめる芝居となっている。
市川亀治郎宙乗り相勤め申し候
序幕 博多沖元船の場より
大詰 梅津館奥庭の場まで
天竺徳兵衛/小平次/おとわ 亀治郎
尾形十郎 右 近
吉岡宗観/馬士多九郎 猿 弥
小平次妹おまき 春 猿
百姓正作 寿 猿
左馬次郎奥方葛城 笑三郎
枝折姫 笑 也
今川左馬次郎 門之助
◎夜の部◎
猿之助四十八撰の内
一、華果西遊記(かかさいゆうき)
経を求めて天竺へと旅する三蔵法師に孫悟空、猪八戒、沙悟浄らが活躍する「西遊記」。日本でもおなじみの中国の物語は、テレビや映画でも取り上げられ、子供たちにも親しまれている。歌舞伎で初めて演じられたのは1878(明治11)年に初演された三世河竹新七作の舞踊劇「通俗西遊記」である。この芝居は、代々の猿之助が孫悟空を勤めており、にゆかりの深い演目だ。それをもとに新たに脚色され、2000年(平成12年)12月に歌舞伎座で初演されたのが『華果西遊記』である。外題にある「華果」は猿之助の俳名で、孫悟空が生まれたという「華果山」に由来する。猿翁(二世猿之助)は、戦後初めて中国で歌舞伎公演を行い、京劇の名優、梅蘭芳らと親交を結んだ。孫の当代猿之助もスーパー歌舞伎で京劇俳優たちと共演するなど、中国との縁が深い。『華果西遊記』は竹本、常磐津の掛け合いなど歌舞伎本来の様式を守りながら、京劇の影響を受けた動きなども取り入れられている。
見どころは、美女に化け、三蔵法師を誘拐した蜘蛛の精たちと孫悟空らが戦う場面。ここは「盤絲洞」として、本場の京劇でも人気のある場面だが、『華果西遊記』で蜘蛛の精が放つ糸は、歌舞伎『土蜘』などで使われる紙を細工した千筋の糸だ。蜘蛛の精に蜘蛛四天らが加わって次々と糸が投げられ、幕切れは舞台一面が糸に覆われる。ここは本場の京劇の舞台も上回る迫力に圧倒される。天竺を目指す三蔵法師一行の冒険が、親しみやすいストーリーとスピーディーな展開で舞台化され、子供から大人まで楽しめる芝居になっている。
孫悟空 右 近
猪八戒 猿 弥
沙悟浄 弘太郎
法明上人 寿 猿
女王妹芙蓉実は妹蜘蛛の精 春 猿
西梁国女王実は姉蜘蛛の精 笑三郎
玄奘三蔵法師 笑 也
大宗里帝 門之助
猿之助四十八撰の内
二、鬼揃紅葉狩(おにぞろいもみじがり)
信州・戸隠山の鬼女伝説に題材を取った能「紅葉狩」をもとにした作品。紅葉狩りにやってきた平維茂は、紅葉に染まった山中奥深くで、たぐいまれな美しい姫と侍女たちに遭遇する。酒宴に誘われるまま、酒を飲み、姫たちの舞に見入るうちに、不覚にもうたた寝を始める維茂。やがて姫は鬼の本性を現し、維茂らと大立ち回りとなる。女たちは戸隠山に住む鬼女であったのだ。
歌舞伎では、能をもとにした『紅葉狩』が明治時代の1887(明治20)年に9代目市川團十郎によって初演され、新歌舞伎十八番として上演を重ねている。この『鬼揃』は小書と呼ばれる能の特殊演出をもとに、戦後、新たに書き換えられたもの。歌右衛門の姫に、猿之助の祖父、猿翁の維茂で1960年に初演された。
『紅葉狩』と『鬼揃』の最大の違いは、後ジテの鬼女の数である。『紅葉狩』では鬼女になるのは主役の姫一人だけだが、『鬼揃紅葉狩』では侍女も含めて全員が鬼となる。
前半、姫、侍女たちが優美に、華やかに踊る場面が続く。維茂が寝てしまったあと、鬼の見顕しとなり、一行が入ると、神女(『紅葉狩』では山神)の八百媛が現れ、維茂を起こそうと踊る。後半は塚から被り物を破って姫から戻った鬼が出る。侍女だった鬼女たちも登場しての激しい所作立てとなり、鬼女たちが迫力ある巴の毛振りを見せる。竹本、常磐津、長唄と豪華な音楽、季節を感じさせる衣裳や舞台の豊かな色彩感、そして所作における静と動のコントラストなど見どころが多い。
更科の前実は戸隠山の鬼女 亀治郎
神女八百媛 笑 也
平維茂 門之助
【公演期間】
平成23年2月6日(月)~26日(日)
昼の部:午前11時~ 夜の部:午後4時~
【観覧料金】
A席 13,000円
特B席 10,000円
B席 7,000円
C席 4,000円
【公演会場】
博多座 http://www.hakataza.co.jp/
〒812-8615 福岡県福岡市博多区下川端町2-1
TEL 092-263-5858
<<チケットや公演の詳細は博多座のサイトにてご確認ください>>